A地帯

創作小説、ブロント語、その他雑記等。

アンジャスト・ナイツ2/Black Embrace #19 「Fallen Angel⑤」

「ありがとう、アルドロ君」

 ユーリが口にしたのは、先ほどのダニイルが口にしたのと同じ、感謝の言葉。
 しかしそれはアルドロの心を強制的に撫で付けるような、気味悪さと恐ろしさを帯びていた。

「君たちナイツロードのおかげで危機は去った。いくら"ジェロイ"と称された私と言えど、あの元憲兵達を相手取るのは骨が折れる。後は私が片付けをするだけだ」

「……ジェロイ、だと」

 ユーリの言葉に、ダニイルが反応する。

「そうだ。君たち王族が私に与えた称号だ。忘れたのかい? ダニイル・ヴァシリヴィチ・パヴロフ」

 名を呼ばれたダニイルの顔に驚愕の色が滲む。

「ずっと……裏切っていたのか? 7年前に王室に入ったあの日から!?」

「そういうことだ」

「何故今になって……!」

 混乱と怒りがダニイルの頭を滅茶苦茶に引っ掻き回す。対するユーリは表情を変えぬまま、西の方向——セントフィナスの方角を見据えて、話し始めた。

「国王が死に、次いでその後継者が死ぬ——民衆を絶望の淵に突き落とすのは、今がちょうどよかったからだ。国王一人を暗殺しても、捕まって代わりの王を立てられたら意味が無いからな」

「何……!?」

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アンジャスト・ナイツ2/Black Embrace #18 「Fallen Angel④ (Angostura bitters mix)」

「そこです」

 市街のホテルを出てから小一時間後、オリガの言う通りに進んだアルドロは、とある脇道の傍でバイクを停めた。

 バイクを降りた二人が暫く道なりに進むと、川を臨む小さな空き地に出た。
 ベンチはあるが、特に遊具と言ったものは無い、何の変哲も無い小さな空き地だ。黒い小型ヘリコプターがそのど真ん中に堂々と停まっている以外は、だが。

「あ……」

 小型ヘリの前に、見慣れた風貌の男が立っているのを発見したオリガは、思わず言葉を漏らした。
 オリガと同じ金色の髪で、白いコートを羽織っている。傍に三人程の兵士を引き連れて、その男は待っていた。
 アルドロは用心して剣の柄に手をかけたが、オリガはそれすら構わずに足早に男に近づいた。

「あっ、おい!」

 慌ててアルドロが後を追う。オリガは男の目の前で足を止め、その顔を見つめながら呟いた。

「叔父さま……」

「『おじさん』でいいって、いつも言ってるだろう」

 ダニイルはそう言って、にこやかな表情を見せた。

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アンジャスト・ナイツ2/Black Embrace #17 「Fallen Angel③」

「クソッ! 一体どうなってやがる!?」

 普段のおちゃらけた雰囲気を一切投げ捨て、怒りに口を任せてレジーは言葉を吐き出した。

「部屋には争った形跡もありませんでした。敵の襲撃ではないとするなら……オリガさんとアルドロさんは自分からここを出て行った可能性があります」

 レジーの言葉に、デルタは動揺を見せながらも、冷静に答える。

「あのボウズ! 一体何考えてんだ……! 執事! 何か思い当たる場所はねぇのか!?」

 乱暴に尋ねるレジーに、悲嘆に暮れた表情のユーリはかぶりを振る。

「そ、そのようなことを言われましても、私も何が何だか……」

「そこまでにしておけ、レジー」

 激昂しているレジーを見かねて、いつも通り壁に寄りかかって腕組みをしていたイクスが口を開いた。

「でもよぉ……!」

「よせ、と言ってるんだ」

 イクスの冷たくしたたかな視線と、レジーの真っ直ぐで熱い視線が交錯する。デルタが2人をなだめようと、間に割って入る。
 一触即発とも呼べる状況に、ユーリはエーカーに助けを求めようと振り返り、言葉を無くした。

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