A地帯

創作小説、ブロント語、その他雑記等。

アンジャスト・ナイツ2/Black Embrace #16 「Fallen Angel②」

 朝6時。
 水平線から顔を出した朝日が、旧市街を照らす。
 まだ朝早いからか、街の中心地に位置する広場には、人影はない。ただ美を讃える像の隣に、鳥が一羽、羽を休ませているようだった。

 鳥の鳴き声が耳に入ったのか、眠りから意識を取り戻し、重い瞼を開いたオリガを迎えたのは、

「グッモーニン、王女サマ。お目覚めはいかが?」

 悪戯っぽい顔をした中年の、爽やかさの欠片もない呼び声だった。

「……おはようございます、エーカーさん」

 夜中の出来事などまるで無かったかのようなエーカーの口ぶりに、気後れしながらも普段通りに返すオリガ。
 カーテンを開け、周囲に異常がないことを確認したエーカーは、扉のドアノブに手をかけつつ、オリガの方を振り返る。

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アンジャスト・ナイツ2/Black Embrace #15 「Fallen Angel①」

「交代だぜ」

 そう言って、オリガの眠る寝室に入って来たエーカー。
 部屋の中には、ベッドに横たわっているオリガと、傍の椅子に座って見張りをしているレジーの姿があった。

 むこうを向いて、スヤスヤと眠るオリガの様子を横目で見つつ、エーカーが尋ねる。

「お嬢ちゃんの様子は?」

「ああ、すっかり眠ってるよ。まぁ色々あって疲れているんだろうが、あんな目に遭ってよく眠れるぜ。全く肝の据わった嬢ちゃんだ……メディアは?」

「そこはユーリが話を付けている。王女の容態を理由に今は大人しいが、スクープに飢えたハイエナの様な連中だ。不用意に身動きはとれないな」

 先の爆発は、犠牲者こそ出さなかったものの、王女の位置を全世界に知らしめてしまう最悪の結果となってしまった。
 同時に重要参考人であるアリーサも、意識不明の重体で病院に運び込まれた。彼女の意識が戻るまで尋問は不可能だ。本部から持って来させた技術部の尋問用兵器も無駄になってしまった。
 代わりに緊急でナイツロード本部に待機していた団員が応援に駆けつけ、現在、現場の混乱は収束しつつある。爆発の原因も調査中とのことだ。

 ともかくオリガの位置が知られた以上、これまでよりも危険度は倍以上に跳ね上がった。

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アンジャスト・ナイツ2/Black Embrace #14 「Sex on the beach③」

「さてと、聞きたいことが山積みなんだ。嫌でも喋ってもらうからな」

 気を取り直して、エーカーは拘束した女に近づき——と言っても相手の靴底が届かない距離までだが——淡々と告げる。

「この私を尋問しようというのか。愚かにも程があるな、オッサン! 部隊時代での苦闘に比べればこの程度……」

 そう強気に言い放つアリーサの言葉を遮って、エーカーが無言でアリーサの後ろを指差す。
 何かと思い、アリーサが振り返ると、奥からドス黒い殺気を放つ怪物——もといイクスが、腕組みをしてそこに立っていた。

「喋らないならアイツに全部任せるけど、いいか?」

「…………は、話せる範囲のことなら話してやる。言っておくが! 決してビビったわけではない! 決して!」

「はいはい」

 明らかに動揺して無駄に大声でそう言うアリーサに対し、エーカーはもはやツッコむ気力も起きず二つ返事で了承した。

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