A地帯

創作小説、ブロント語、その他雑記等。

The twain Swords #プロローグ

《11111001111 11 10111  100:111001》


 荒野一面に広がる真っ赤な戦場は、修羅場というにはあまりにも静かすぎた。
 夜陰の闇におぼろげに浮かぶ骸の山は、地獄絵図というにはあまりにも纏まりすぎていた。





 腹を一突きされ死んでいる者。脊髄を斬られている者。首の骨が折れている者。手足が本来曲がらない場所で曲がっている者。致死量の法術で全身を焼かれた者。腰から下がない者。頭のない者。


 姿形は異なれど、全員平等に死んでいた。


 死は誰に対しても平等だ。男にも女にも、大統領にもホームレスにも、文民にも軍人にも、生きとし生けるもの全てに死は訪れる。
けれども、ここに民間人の死体はない。赤にまみれた軍服から分かる通り、この死体達は全て軍人であり、ついこの間までしょうもない冗談を言い合い、肩を組んで一緒に笑っていた仲間達のものだ。


 誰一人として息をしていない。死は誰に対しても平等の制約を課す。人の世との完全なる隔離。人間は死ぬと魂の21グラム分体重が軽くなるとかいう迷信がある。漫画のように人の体から煙のように魂が抜けていくのかは疑わしいが、少なくとも僕達が普段呼んでいる「心」とか「意識」とかいうものが死んだ瞬間消え失せるのだ。後に残るのは心拍が停止し、脳信号の途絶えた、二度と動く事は無い亡骸。もう冗談を言う事も、笑う事も、ない。単なる無意味な有機物、「モノ」としてゆるやかに分解されるのを待つだけだ。


 そんな「モノ」に囲まれて、僕の目の前に彼女は立っていた。いつもの紅いコートは半分以上形を失い、原型をとどめていない。代わりに黒のインナーと白い素肌が顔をのぞかせていたが、返り血と自分の血で赤黒くテカっている。
 ねっとりとした死臭漂う風の中、傷ついた自らの体も意に介さず、彼女の紅い目はただまっすぐに打ち倒すべき敵を捉えていた。そこに感情の類いはない。目の前の敵を打ち倒すという目的だけを見据えている。


 人は彼女を有史最強の戦士と評する。


 ただ見守るしかなかった。
 二人だけの崇高な空間。荘厳な領域。世界の命運や正義などではなく、あくまで命の奪い合い。決闘というよりも儀式と呼んだ方がふさわしいのかもしれない。どちらが生き残るか決する為の儀式。これから何が始まろうと、何が起ころうと、この神聖な儀式が終わるまで何人たりとも手を出すことは出来ない。


 その洗練された儀式の始まりを示すのは、あまりにも聞き慣れた、剣と剣のぶつかり合う陳腐な音だった。