アンジャスト・ナイツ #16 「Tovarisch」
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「ん?エーカーじゃねぇか。何してんだこんなとこで」
ミソラーメンの載った盆を持ちながら座る場所を探していたオレは、食堂の隅に見覚えのある背中を見つけた。後ろで結った女みたいに長い黒髪、白いジャンパー、あとひねくれ者っぽさが全身からにじみ出てるような所。間違いなくあのクソジジイだ。
「何ってお前、ここに来たら十中八九食べる為に決まってんだろうが。アホか?」
……正論ではあるが、こいつが言うとどうにも納得いかねぇ。あの戦闘で見せたキレッキレの高貴さは影も形もない。多分オレの思い違いだったんだろう……あの時半分意識なかったし。
「エーカーお前それ、何食ってんだ?」
「ムルタバ」
「ムル……?」
「東南アジアの料理だ、中々うまいぞ」
「はぁ……」
見た目は揚げパンみたいなモノで、カレーっぽいソースをつけて食うらしい。てか食堂ってそんなマイナーっぽいモンまで売ってたのか。
「……あんた、アジアの生まれだったんだな。そういう風には見えないが」
「いや俺ルーマニア人だけど?」
「……」
うぜえ。
「でも、生まれも育ちもイギリスでさ、両親なんていなかったから医者から言われたときには驚いたなー。ま、生きてりゃどこの出身だって俺は構わんがよ」
「……オレも両親はいねぇ。ずっと独り身だ」
そう言いながらずるずるとラーメンをすすった。エーカーは食事の手を止め、オレの方を見る。
「たまに親がいる奴をうらやましくもなるがよ、今のオレには仲間もいる、寂しくなんかない。同じ孤児だからとかそういうのはナシでさ、ただ一緒にいて楽しいんだ。傭兵団ってのは世の中じゃあんまいいイメージ持たれてないがよ、連中と協力したり競い合ったりする所としちゃこれ以上の所はないんじゃあないか? 特に、オレみたいな戦うことしか能がない奴にとってはな」
「……ずいぶんと悟ったような言い方するじゃあねぇか。 宗教組織にでも入ったか? それとも精神主義のパイオニア目指してるとか? アルドリズム教、創始する?」
「しねェよ」
……なんでこんな奴にこんな話してんだ、オレは。
エーカーは最後の一口を放り込み、席を立った。家族こそいないが、そのかわり信頼できる仲間がいるってことじゃ、多分こいつも同じハズなんだが。
「けど、オレは強くなるためにここに入ったんだ、あんまり仲間に頼りすぎてもいけねえな。……あんたは何でナイツロードに入った? やっぱ、金か?」
去り行くエーカーの背中に向かって訊ねる。エーカーはこちら側を振り返らずに、
「だったらまだよかったな」と言った。
……だったら? よかった? 奴の言っている意味がよく分からない。問いただそうにもエーカーの姿は既に無く、残ったのはただ頭の中のハテナだけだ。目の前のミソラーメンは熱々だってのに、オレの心はむしろ解決しなかった疑問による不快感と薄気味悪さで冷やついていた。
オレはよく勘がいいとか、直感が鋭いとか言われるんだが、さすがにあの時ばかりは勘付かなかった。
あいつの全ての行動は、金のためでも仲間のためでも、
そもそも、自分のためですらなかったのだ。
To be continued……?