アンジャスト・ナイツ #12 「Moonlight」
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数回の銃声の後、オレの頭上にある天井が轟音と共に崩れ落ちてきた。
「うおぉぉぉー!?」
もう体を支えるという機能も失いかけた自らの足を、無理矢理動かし重心を背後に向ける。オレが地面を蹴飛ばしその場から離れるのと、1、2トンはあるコンクリートの塊がつい先ほどまでオレが立っていた場所に叩きつけられたのはほぼ同時のことだった。
「なにしやがんだクソジジイーっ!!」
コンクリート製の固い床に派手に背中を打ち、顔をしかめながら叫んだ。
殺人ロボ共も、上から降ってきた天井を難なく躱し、床に這いつくばって喚いているオレの息の根を止めようと近づく。が、あと1メートルというところで、殺人ロボ共の動きが不意に止まった。奴等の目はオレの後ろに釘付けだ。
「……?」
殺人ロボの視線を追うように振り向いたオレの目に映ったのは、穴の空いた天井から降り注ぐ月光を浴び、体全身を青白く輝かせたエーカーの姿だった。その姿はまるで--青い宝石のようだ。
「ご苦労だったな」
エーカーはすれ違いざまにそうオレに囁く。
瞬間全てが終わっていた。オレがエーカーの姿を再び確認したのは、奴が2体の殺人ロボをただの金属の塊に変えた後だった。注射針の刺さった金属塊を見下ろすエーカーの背中に声をかける。
「それがあんたの能力かよ……」
「そうだ」
返答はいつものフザけた口調ではなく、短く、冷たいものだった。ゆっくりとこちらを振り返る青い人間には、一種の気高さまで感じる。
「異能『イル・ムーン』……月光の力を借り、自身の身体能力を強化させる。俺の細胞一つ一つが突然変異を起こしているようなものだ。だからディスペル系列の解除魔法は効かん。法術学ではなく生物学の分野だ、これは」
……奴が何を言ってるのかさっぱりだが、一つだけ分かったことがある。この男--エーカーは、オレが足下にも及ばないぐらい強い。
傭兵として必要なのは性格の良さとか仲間を思う心などでは断じて無い。そんなものの為に大事な任務を棒に振られたら依頼主もたまらないだろう。傭兵に必要なのはもっとシンプルなモノだ。強さ、頭の良さ、そして才能……人間としてはともかく、傭兵として彼は完璧な人間だった。
敵わない。
そう思った途端、体の感覚が無くなり、視界がぼやけ始める。
「--ッ! 無理し過ぎだボウズ! じっとしてろよ、止血してやる」
オレの様子を見かねたエーカーがあわてて傍に近づいてきた。もちろん心からの心配であるハズはない。オレが死んだら死体を持って帰らなければいけないし、その後の始末も面倒だろう。奴にとっては迷惑極まりないのだ。
「チッ、いいなぁ……あんたは強くて。うらやましいぜ……」
「……喋るな。傷がひどくなるぞ」
「オレも……もっと強けりゃ……才能が、あれば……」
「……」
ほとんど意識の無い状態でうわ言のようにオレの口から漏れた言葉は、エーカーにはどう聞こえただろうか。いや、想像するだけ無駄な事だ。大方、弱者の泣き言だと思ってるんだろうな。奴はそういう人間だ。そう勝手に思いながら、オレは意識を失った。
《B-00量産型残り5体》