A地帯

創作小説、ブロント語、その他雑記等。

アンジャスト・ナイツ #8 「Stinger」

しばらく更新できなさそうなので書き溜めてた分を投下 


 オレは影の中を泳いでいた。
 この一文だけだと、その言葉を聞いた人間は皆一様に頭の上に「?」を浮かべるだろう。シャレた例えなのだろうか。しかしそれにしても「影の中を泳ぐ」とは一体全体どういう状況を指すのか。いや、難しく考える必要はない。現に今、オレは「影の中を泳いでいる」のだから。
 オレの所属している庸兵団「ナイツロード」が他の庸兵団と一線を画しているのは、人員全員が超能力者だということだ。魔導師、エスパー、改造人間、突然変異体……普通の人間ではこなせないような任務も、超能力で解決できる。「ナイツロード」がその規模のわりに売り上げが高いのもそういう理由があるからである。
 そして先ほど言った「影の中を泳ぐ」、これがオレ、アルドロ・バイムラートの特殊能力だ。もう少し正確に言うと影の中に入り込み、地面の下を移動して別の場所の影から出ることができる……というものである。

「……7」

 7体捕捉。建物の隅々まで調べてもいないとなると後の2体は外での見張りだろう。

「エーカー、応答しろ」

 腕についている小型端末に向かって声をかける。お相手はあの自称リーダーだ。だが返事はない。

「……おい、応答しろ」

 返事はない。またからかっているのか……と思ったが、端末に目をやると電波が圏外になっているのに気が付いた。新しい発見だ。どうして今まで知らなかったのだろうと不思議に思う。どうやら、影の中に電波は届かないようだ。あとで開発部に言って特別なものを作ってもらうか……








「アルドロさん大丈夫ですかね……」

 アルドロが施設に突入してから10分程度。デルタは心底心配そうに呟く。

「ハン――どうだか……」

 俺はかろうじて原型を保っている鼻をさすりながら吐き捨てるように言った。仮に今、向こうから奴の悲鳴でもあがってくりゃあ俺は満足して帰るだろうな。

「……その声音はまるで帰ってきて欲しくないように聞こえるぞ。エーカー」

 見透かされたようだ。隣でイクスがこちらを睨んでいる。……このイクスと言う男、高身長といい、銃遣いといい、鋭い目つきといい……雰囲気が俺のよく知る人物にとても似ている。だからなのか、どうもこの男の近くにいると体中の筋が硬直したような……そんな錯覚に見舞われる。


 端末のコール音がその硬直をほぐした。小僧だ。

『アローアローこちらアルドロ。現在1Fの北側倉庫前、応答しな。ドーゾ』

「おう、こちらエーカー。お前がくたばってなくて残念だよ。ドウゾ」

『……まだ根に持ってんのか? まぁいいや。報告するぜ。1Fは玄関前に1体、ラボに2体、北と西の階段に1体ずつ。2Fはロビーに1体、所長室付近に1体だ。ドーゾ』

「OKOK。あとの2体は外ってことだな? 了解。とりあえずお前は一度こっちに戻って来い。ドウゾ」

 認めたくはなかったが、大助かりだ。正確ではないとはいえ、敵の大方の位置と人数が分かったのはデカイ。特に外の人数を把握できたのは大収穫だ。後は外から攻めるか内側から殺るか……とにかく相手がバケモノロボットである以上、1対1よりも全員で1体ずつ潰していくのが確実かもしれな――
 ……アルドロからの返事がない。何かあったのか?

「聞こえなかったか? こっちに戻って来いといったんだ」

 もう一度端末に指示を出すが反応はない。まさか襲われたわけじゃあるまいな。そんなことを想像した矢先、ようやくアルドロが口を開いた。

『……今、オレの正面にあの殺人ロボが1体いる』

「何?」

 いきなり何を言ってるんだこいつは。

『相手はオレに背を向けている。こちらには気付いてない』

 ――だから何なんだ?

「おい、からかってんじゃねぇぞボウ――」

 直後、俺の声を掻き消すように端末から鉄のぶつかる音。瞬時に俺はアルドロの剣が壁に叩きつけられた音だと分析した。

『今、あいつがこっちを向いている』

 つまり今の音はアルドロがわざと出したものだということになる。

「……手前は偵察中に脳味噌をどこかに落っことしたのか? まぁ元々バカだからあってもなくても変わりなさそうだがよ。勝手なことしでかしてんじゃねえ! チームワークを尊重しろ!」

『ハッ、まさかあんたの口からチームワークなんて言葉が出るなんてな。見事に似合ってないぜ』

「冗談かましてますけどあなたさっきトラックの中で殺されかけたのを覚えてますか? 死ぬよ。 その装備じゃ死ぬ」

『ま、ちょっとしたリベンジマッチってことでさ、やり返さないと気が済まないんだ。注射も1本あるしとっとと1体倒してすぐそっち戻るぜ』

 そこで一方的に通信が途切れた。ふざけんじゃあないぞ。ボウズの能力は確かに優秀かもしれないが、それを鑑みてもあのバケモノに勝つビジョンが全く見えない。まして増援でもされたらどうする気なのだろう? 土下座で許してもらうつもりですか? 
 ……まぁアルドロ君さすがと言うべきですか。やってくれました。完全に身バレしたので外側から徐々に攻略する必要性が完全消滅して炭すら残らない有様。もはや内側の敵を片っ端から殺る(アルドロ含めて)しかないです。
 近くで通信を聞いていた2人はというと、1人はこれからの重労働に溜息をつきながらもまぁアルドロも助けなくちゃねという比較的ポジティブな人間。もう1人は……怒りで黙りこくってる。あとなんか背後に鬼とか見えてる。もちろんアルドロを許す気は無いかな。

「……潜入終了ー。突撃しまーす」

 やる気のない俺の掛け声は果たして2人には聞こえたのだろうか。
 
 






 つか正直もうやってらんねーアルドロお前何を血迷ったか知らんが覚えとけよ……













《B-00量産型残り9体》


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シリアスなストーリーのハズがいつの間にかギャグ回になっていた。何を言ってるのかわからねーとは思うがまあ見たとおりだ。